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ラザール・ベルマン エディション




Brilliant Classics の名物とも言える「HISTORIC RUSSIAN ARCHIVES」から、7枚組の「ラザール・ベルマン エディション」を聴いた。

ラザール・ベルマン名演奏集(7枚組)

ラザール・ベルマン名演奏集(7枚組)


ベルマンと言えば、フランツ・リスト。このボックスセットでも、≪超絶技巧練習曲≫を始め、≪ダンテを読んで≫、≪メフィストワルツ≫、≪巡礼の年:スイス≫、ソナタロ短調シューベルトの歌曲編曲──とりわけ≪魔王≫の凄まじさ──、ピアノ協奏曲第1番……と、有り余るテクニックでピアノを鳴らし、リスト作品の「理想の」演奏を聴かせてくれる。
リストだけではなく、プロコフィエフの≪トッカータ≫や≪ロメオとジュリエット≫やピアノソナタ第8番≪戦争ソナタ≫、ベートーヴェンの≪熱情≫≪月光≫*1、他にスクリャービンドビュッシーラヴェルショパンエチュードなど、ベルマンの強靭なタッチとヴィルトゥオジティを十分に堪能できる。とくに、チャイコフスキー=フェインベルク編曲≪悲愴≫の第3楽章スケルツォの爆音には、ベルマンというこのロシア出身の「巨大な」ピアニストの存在感を改めて認識させてくれる。

ところで、『レコード芸術』2006年9月号で川田朔也氏も触れているように、このボックスセットの解説には、ベルマンに関して興味を惹く記述がある。ベルマンは60年代、西側にデビューし、「リスト弾き」として一世を風靡した──当然、一部の評論家から反発もあったが。ドイツグラモフォンからもレコードがリリースされた。そんな人気ピアニストが80年代以降、西側の音楽の舞台からほとんど姿を消した。どういうわけか。
ベルマンはユダヤ人であった。西側での演奏旅行において、常にソ連KGBの監視の目が光っていたという。しかも決定的だったのが、反ソ的書物として看做されていたヘドリック・スミス著『ロシア人』(時事通信社、Hedrick Smith "The Russians")の所持を当局に見つかってしまったことだ。「アンチ・ソヴィエト密売人」。それがベルマンに対する祖国の評価となってしまった。言うまでもなく、西側での活動は制限された。

The Russians

The Russians


このCDには、1980年に録音されたシューベルトピアノソナタ21番変ロ長調 D,960 がある。これがとてもいい。ロマンティックでリリシズムに溢れていて。第1楽章は「繰り返しあり」(これが重要)で22分という長さでもって、シューベルトの音楽世界を聴かせてくれる。
クレメンティ短調なのだ、これが)やハイドンソナタスカルラッティモーツァルトヘンデル(アリア、ヴァイオリンとの二重奏)の小品も、味わいがある。ベルマンの演奏をもっと聴きたくなった。

*1:このベートーヴェンはピアノのピッチが低いが……