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”僕は性的虐待の被害を受けた”トーマス・ロバーツ、神父を告発



CNN の人気キャスター、トーマス・ロバーツ(Thomas Roberts)が、14歳のときカトリックの神父から性的虐待を受けていたことを公表した。自ら記事を書き、CNN の番組『Anderson Cooper 360』に出演し*1、彼の受けたセクシュアル・アビューズの実態を証言した。

TV anchor: I was sexually abused by Catholic priest [CNN]


神父による性的虐待が始まったのは、ロバーツの両親が離婚した14歳のときだった。3年間、それが続いた。虐待を受けてからのハイスクールの生活は、恥辱と欺瞞に塗れた「牢獄」に変わった。以後20年に渡って、その出来事は彼を苦しめた。

Thomas Roberts Interview Video 1



少年は誰にも相談できなかった。とりわけ両親には。なぜならば、両親の離婚が息子を酷い目にあわせたと思われるのが、いやだったから。「どうすることもできなかった」──罠に捕らえられたように、身動きができなかった。
加害者は世間から信望の篤い大人(mentor)──そして自分も慕っていた(beloved priest)──聖職者だったのである。14歳の少年にとって、むしろ虐待の事実が発覚することが、恐怖だったのである。


加害者の神父は地獄で焼かれるがいい──トーマスの母親は胸の内を語る。

Thomas Roberts Interview Video 2



トーマスは苦しみ、自殺を図る。母親のクスリ(鎮痛剤、painkiller)を飲んだ。一つずつ、また一つずつ。そしてボトルの錠剤を全てを飲みきって、ベットで横になり、死ぬのを待っていた。


そのとき彼の姉がやってきた。彼女は弟の命を救った。
トーマスは話す──自分には家族がいる、自分のことを思ってくれる家族がいる、それはとてもラッキーなことだった。

Thomas Roberts live on "Anderson Cooper 360" Part 1

"This too shall pass" is one of my favorite religious sayings. The abuse did pass, but it left me so insecure about who I was.

大学に入ってから、トーマスは Michael Goles という人物と知り合う。実は Michael Goles もトーマスに性的虐待を加えた Jeff Toohey 神父の被害者だった。が、そのときはトーマスは行動を起こさなかった。被害の事実を「隠して」いた──隠さざるを得なかった。自分は Goles の力になれる(help)ことを理解していたのだが──。
20年後、トーマスは Michael に連絡を取る。やっと神父の犯罪(crime)を認識・確信できた。そして二人してJeff Toohey神父を告発した。神父は10に及ぶ罪状で裁判所から訴追された。


Thomas Roberts live on "Anderson Cooper 360" Part 2

What would people think? Would I ruin my career? But I came to the conclusion that I will not be scared anymore. I will not be scared of telling the truth because it might be uncomfortable for people to hear.


If this story compels even one person to seek help for being sexually abused, then it is all worth it. All it takes is telling one person. From there, strength grows and you can tell a second person and so on. Then you can finally have control of your life back.





[関連エントリー]



CNNの画面のテロップや「関連エントリー」でもわかるように、トーマス・ロバーツはゲイであることをオープンにしているニュースキャスターで、全米レズビアン&ゲイ・ジャーナリスト協会(NLGJA, National Lesbian and Gay Journalists Association)にも所属している。
それで今回のロバーツのテレビ出演に関して、ゲイ・メディアの反応として興味を惹いたものがあった。AfterElton というサイトで議論されているものである。

Thomas Roberts on CNN: did we miss something? [AfterElton]


ここで投げかけられている問題は、ロバーツがゲイであり、さらに Michael Goles もゲイであること。そしてそのことによって、ゲイという性的指向が、子供の頃の「不幸/不当な出来事」により決定されているのではないかという「印象」がTV=マスメディアを通してもたらされることはないか、ということである。
もちろん、ここの議論で誰かが応えているように、レズビアンの場合も考えると──ゲイの場合と反対に、つまり「男性/異性」による「不幸な体験」が原因だとまことしやかに語られる──そんな単純な理屈でセクシュアリティアイデンティティが決定されるわけはない。

しかし僕が思うのは、こういうときにこそ、ゲイ・アイデンティティがどうのとかセクシュアリティがどうのとかいう議論は「捨て去る」べきだと思う。「緊急の」問題は、性的虐待であり、とりわけ未成年の男性が被る孤立感であり「シリアスに扱ってもらえない」という意識であり、その苦悩である。そういう「風潮」こそが問題なのである。

*1:2007年3月12日放映。タイトルは”Sins of the Father”