HODGE'S PARROT

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ラフマニノフを聴きながらフィリップ・グラスを読む




エドワード・ストリックランド著『アメリカン・ニュー・ミュージック 実験音楽ミニマル・ミュージックからジャズ・アヴァンギャルドまで』を(再)読書中。この本は、英文学者であるE・ストリックランドが、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリー、ジョージ・クラムといった「アメリカの」音楽家にインタビューしたものだ。

アメリカン・ニュー・ミュージック―実験音楽、ミニマル・ミュージックからジャズ・アヴァンギャルドまで

アメリカン・ニュー・ミュージック―実験音楽、ミニマル・ミュージックからジャズ・アヴァンギャルドまで


下世話なのかもしれないが、興味を惹くのは、やはり音楽家の音楽家に対する評価だろう──例えば、フィリップ・グラスラフマニノフに関する次のような発言。

先日、友人が私を訪ねてきました。私はディナーをつくりながら、ラフマニノフの第三番ピアノ協奏曲を聞いていました。そうしたら彼が「なんてことだ。ラフマニノフを聞いているのか」と言うので、「そうだ、実際二〇世紀の偉大な作曲家の一人だよ」と私は答えました。彼は驚いていましたが、作曲家というものは、何がいい音楽かということについて、他の人々のようにカテゴリーによって考えたりはしないものです。その曲に私が興味を持っていたのは、ラフマニノフが考案した旋律線の拡張の仕方だったのかもしれません。





アメリカン・ニュー・ミュージック』(柿沼敏江、米田栄 訳、勁草書房) p.273


ディナーをつくりながらラフマニノフを聴くミニマル系の作曲家ってなかなかいいと思うけどな。それにグラスには、時にこのロシアの作曲家=ピアニストをも凌駕するのではないかと思うくらいメロディアスな部分があって、そこがたまらない魅力でもあるんだけれど。例えば、クライヴ・バーカー原作の映画『キャンディマン』(Candyman)の音楽とか……

Philip Glass: The Music of Candyman

Philip Glass: The Music of Candyman


Candyman


Candyman - Piano theme


……これは昨日、YouTube でニコライ・ルガンスキーの弾くラフマニノフを聴きながら「思い出した」エピソードだ。


ラフマニノフ:狂詩曲&変奏曲集

ラフマニノフ:狂詩曲&変奏曲集

Rachmaninov: Piano Concerto 1-4 Paganini Rhapsody

Rachmaninov: Piano Concerto 1-4 Paganini Rhapsody


そんなわけでラフマニノフを聴きながらフィリップ・グラスのインタビューを読んでいたのだが、淡々とした語り口の中に、ドキッとさせられるような強烈な内容を孕む発言もあった。≪屋根の上の1000台の飛行機≫(1000 Airplanes on the Roof)に関するものだ。

これは俳優が宇宙人との一連の遭遇について語るモノローグになっています。つまり、UFO による誘拐に関するものです。これは、記憶という問題に関して、ドリス・レッシングと私が何回か行った議論から生まれてきました。


私たちは忘れることの能力について、話し合っていました。社会全体が、物凄い出来事をただ忘れてしまう。私はこの社会全体と個人の健忘症に、ひじょうに興味を持ったのです。
彼女は一度、ためしに私にこういうことを聞きました──「1919年のインフルエンザの流行を覚えていますか」と。「いえ、何ですかそれは」と私は聞き返しました。「これこそ、私が言いたかったことなんですよ」と彼女は言いました。250万人の人が死んだのです。第一次世界大戦の死者よりも多い数です。私たちは実際こうしたことを忘れているということを知って、とっさに私はまったくショックを受けたんです。


第二次世界大戦ユダヤ人大虐殺についても、私たちは最大限の努力をしてようやく思い出しています。宗教団体の努力によって、思い出すことができているんです。ロシアで死んだ二千万人の人々については、「ほとんど」忘れられていますし、中国の文化大革命の間に死んだ数多くの人々についても、私たちはすでに忘れはじめています。


記憶という問題に興味を持つうちに、私はUFOに出会った経験のある人々にとって、それを思い出すことが「きわめて」困難であることを、彼らとの出会いやその分野の本を読んで、気づいてのです。ですから最大の問題は、資料になっていない多くのケースがあるということではなくて、関係者がそれについて語りたがらないケースがひじょうに多いということなのです。





アメリカン・ニュー・ミュージック』 p.259-260

1000 Airplanes on the Roof

1000 Airplanes on the Roof





[キャンディマン/Candyman]

ヘレンは、キャンディマンの伝説に興味こそ持っていたが信じてはいなかったので、ふざけてその名を唱えてしまう。ある日、ヘレンは大学教授である夫トレバーの師から、キャンディマンについての話を聞く。キャンディマンが奴隷の息子であったこと、地主の娘と恋に落ち、娘を妊娠させてしまったためにリンチに遭い、ノコギリで右腕を切り取られ、養蜂所の蜂に全身を刺されて死んだことなど・・・ 。