HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

2006年のベスト音盤10




2006年はロベルト・シューマンの没後150年という記念すべき年だったので、このブログでも「シューマン祭り」を開催すべく、CDのレビュー/関連情報紹介などに励もうと大志を抱いていたのだが、ぜんぜん果たせなかった。なのでシューマン・フェスは2007年も続行する。

とりあえず2006年に買ったCDの中からとくに印象に残ったものを独断と偏見で10(セット含む)挙げたい。

Live From the Lugano Festivals 2005

Live From the Lugano Festivals 2005

マルタ・アルゲリッチを筆頭に、ルノー&ゴーティエ・カピュソン兄弟、ミッシャ・マイスキー、リリア・ジルベルシュタインら豪華な面子によるルガーノ音楽祭のライブ。
曲は、メンデルスゾーンピアノ三重奏曲ラフマニノフのチェロ・ソナタブラームスピアノ五重奏曲というメジャーな室内楽に混じって、あまり演奏されることのないベートーヴェンのピアノ四重奏曲、ブラームスの《ハイドンの主題による変奏曲》の2台ピアノ版、モーツァルトの「あの有名な」ピアノソナタハ長調K545をグリークが4手用に編曲した作品、インファンテの《アンダルシア舞曲》など。どれも聴き応えがあって楽しめた。

フランク:オルガン曲全集(2枚組)

フランク:オルガン曲全集(2枚組)

ブリリアント」レーベルは凄かった。ただ廉価なだけではなく、デュファイやオケゲムのミサ曲からジョン・ケージまで、さらにロシアン・アーカイヴと銘打ったロシア出身のアーティストの膨大なボックスセットなど、幅広いレパートリー、歴史的演奏、そして大量物流攻勢で殴り込み。おかげで聴く時間が取れない、という嬉しい悲鳴(笑)。
僕の大好きなフランク作品から、ジャン・ギユー(Jean Guillou)演奏によるオルガン曲全集を挙げておく。《前奏曲、 フーガと変奏曲》 Op.18 の、静謐で、敬虔で、そのあまりに美しさに涙が出てくる。これこそ天上の音楽だよ。

Music for Two Pianos

Music for Two Pianos

バッハの『フーガの技法』の未完のフーガを元にした『対位法的幻想曲』が素晴らしかった。『シャコンヌ』編曲だけではない、ブゾーニ音楽に開眼した。同じナクソスから、ヴォルフ・ハーデン(Wolf Harden)が独奏ピアノ版による『対位法的幻想曲』を出している。こちらも聴き応えがあった。ハーデンは、ブゾーニ・ピアノ作品集(全集?)を進行中、揃えたい。

Busoni: Piano Music, Vol. 1

Busoni: Piano Music, Vol. 1



  • 7) フィリップ・ジャルースキー『Vivaldi: Virtuoso Cantatas』(Virgin Classics)

Virtuoso Cantatas

Virtuoso Cantatas

カウンターテナーってこれまであまり興味なかったんだけど(男声はバリトンだろ、って感じだったので)、ジャルースキーのこのヴィヴァルディを聴いて、これは面白い!と思った。美声でしかも甘いマスクだし。『ヒーローズ』も「カッコ良かっ」た。

ヒーローズ〜ヴィヴァルディ・オペラ・アリア集

ヒーローズ〜ヴィヴァルディ・オペラ・アリア集



タワーレコードの「VINTAGE COLLECTION」の一枚で、『ナターシャ・ウンゲホイエルの家へのけわしい道のり』に続く、ヘンツェの復刻&国内仕様CD。指揮は作曲者ヘンツェ自身で、ピアノ独奏がクリストフ・エッシェンバッハカップリングがベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。最近は指揮者エッシェンバッハになってしまったが、ピアニスト・エッシェンバッハもとても魅力的だ。片山杜秀氏による解説も読ませる。
タワーレコードによる、こういったレーベルを超えた貴重な音源の復刻も嬉しい企画であった。他に一枚だけ挙げると、「RCA PRECIOUS Selection 1000」からクレオ・レーンのヴォーカル、エルガー・ハワース指揮&ナッシュ・アンサンブルによるシェーンベルク『月に憑かれたピエロ』の「英語版」を。

マルクス:弦楽四重奏曲全集

マルクス:弦楽四重奏曲全集

トーマス・クリスティアン・アンサンブルによるヨーゼフ・マルクス(Joseph Marx、1882−1964)の弦楽四重奏曲。三曲あって、それぞれ「古風な四重奏曲」、「古典様式の四重奏曲」、「半音階的四重奏曲」と名付けられている。マルクスオーストリアの作曲家で、後期ロマン派風の甘美さ、耽美さが魅力。端的に、美しい。クリムトのカヴァー絵も曲調にぴったりだ。

後期ロマン主義音楽の作曲家だが、フランス印象主義音楽の影響を程よく取り入れることにより、若干モダンな響きを首尾よく獲得した。音楽評論家としては、自身と同じく新ウィーン楽派の周辺にいて実力を発揮しながら、革新的でないと言われがちな作曲家、たとえばフランツ・シュミットやフランツ・シュレーカー、エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトらを擁護した。

Magnard: Quatuor Op.16/Cello S

Magnard: Quatuor Op.16/Cello S

ミシェル・プラッソントゥールーズ・カピトール国立管弦楽団による交響曲が印象的だったマニャール(Lucien Denis Gabriel Albéric Magnard、1865 - 1914)の室内楽作品。フランクのような凝った構成、そして精妙な響き。
ちなみにウィキペディアによると、マニャールの父はベストセラー作家でフィガロ紙編集主幹のフランソワ・マニャールだという。

マニャール自身は「フィガロの息子」と呼ばれることを好まず、自らの楽才のみを恃みに、実家から経済的援助を受けずに自立しようと決意する。兵役を経験し法律学校に学んだのち、パリ音楽院で対位法をテオドール・デュボアに、作曲をジュール・マスネに師事。しかしヴァンサン・ダンディとの出逢いがより重要で、個人的に4年にわたってフーガと管弦楽法をダンディに師事し、最初の二つの交響曲をダンディの指導のもとに書き上げる。《交響曲 第1番 ハ短調》はダンディに献呈された。


父フランソワは、自力で成功を勝ち取ろうとする息子の願いを気遣いながらも、自分なりにできる限りの支援を息子にしようとした。フィガロ紙での宣伝もその一つであった。

Piano Sonata

Piano Sonata

マルク=アンドレ・アムランの演奏による、ポール・デュカスのピアノソナタアベル・ドゥコーの《月の光》。デュカスのソナタは、ジョン・オグドン盤やJean-François Heisser盤に技巧派アムランの演奏が加わった、という感じだけれども、ドゥコー(Abel Decaux、1869-1943)の録音はとにかく貴重である。
以前、フレデリック・チュウというピアニストがシェーンベルクとのカップリングでCDをリリースしており、その記事を『レコード芸術』か何かで読んで聴きたい思っていたのだが、結局手に入れることができなかった。それをアムランが録音してくれた! 印象派──例えばラヴェルの『鏡』のような「青白い炎」がチロチロと揺らめくような感じ、新ウィーン学派のようなアンニュイな響きが絶品だ。ブックレットには次のようなことが書いてある。

音楽の題材は、作家のルイ・ド・リュテスによる碑文から取られている。空中を静かに滑る白く光る月、動きのない幽霊、青白い光、神秘的な影、悲しげに泣いている猫の死体・・・それはまさにエドガー・アラン・ポーの世界である。



ロジャー・ニコルズ 『月の光』の解説より

Schumann Songs

Schumann Songs

17歳で夭折した天才少女エリザーベト・クールマン(Elisabeth Kulmann、1808-1825)の詩にシューマンが音楽を附した作品。しかも、シューマンの彼女への「想い」を朗読という形で付け加えた、とても貴重な録音である。クールマンについては喜多尾道冬氏が簡潔に記しているので、それを参照させていただく。

クールマンとは何者か。彼女は1808年、ロシア人を父、ドイツ人を母にサンクト・ペテルブルクに生まれ、11歳でペテルブルクの天才少女詩人と謳われた。13歳でギリシア語やラテン語を含め、11ヶ国語をマスターし、カモンイス、ラシーヌ、タッソー、ホメロス、メタスタージョ、ミルトンらの作品を訳すという飛びぬけた語学の才能を示した。それだけでなく絵画や音楽、数学や植物学にも秀で、何千という詩を作った。古代ギリシアの詩人アナクレオンの8巻からなる訳詩集を出版してもいる。




レコード芸術』2006年9月号「海外盤試聴記」より

Elisabeth Kulmann [Wikipedia de]

Elisabeth Kulmann war die Tochter eines russischen Offiziers und einer deutschen Mutter und wuchs multilingual auf. Bereits im Alter von sechs Jahren las und sprach sie fließend Russisch und Deutsch. Sie bekam bald Unterricht in weiteren Fremdsprachen und sprach dank ihrer Sprachbegabung neben ihren beiden Muttersprachen bald Englisch, Französisch, Spanisch, Italienisch, Portugiesisch und Neugriechisch. Außerdem verstand sie Latein, Altgriechisch und Kirchenslawisch. Neben zahlreichen Übersetzungen widmete sie sich eigenen Dichtungen, hier vor allem in ihren Lieblingssprachen Russisch, Deutsch und Italienisch.

Ende 1824 erkrankte Elisabeth Kulmann schwer und starb ein Jahr später im Alter von nur 17 Jahren in ihrer Heimatstadt.


シューマンはクールマンの肖像画を机の上に花で飾って立てかけていた。岸田碌渓『シューマン 音楽と病理』によると、ブラームス宛にシューマンは次のような手紙を書いている。

さて君が送ってくれたものすべてに感謝の辞をのべたい。パガニーニの《奇想曲》と五線紙は有難かった。すでに幾つか(五曲)に和声をつけたが、この仕事は昔の自分の曲を自由に編曲するよりはむずかしいようだ。というのは、パガニーニはしばしば特有の低音を使っているからだ。ともかく前にピアノ独奏曲を編曲したのが今の仕事に大いに役立っている……さらに君に、ひとつふたつ頼み事があるのだ。エリザーベト・クールマンの詩集と地図帳を送ってはくれまいか。記憶ちがいでなければ、二年前にハングルクのシューベルト氏が贈り物として……地図帳を送ってくれたのがあるはずだ。




岸田碌渓『シューマン―音楽と病理』 p.475

若くして亡くなった少女の詩集と地図帳を欲するシューマン。《クールマンによる7つの歌曲》の第一曲は「月よ、わたしの魂のなぐさめ」(Mond, meiner Seele Liebling)である。


演奏は、ミヒャエラ・カウネ(ソプラノ)、ブルクハルト・ケーリング(ピアノ)、ウード・ザーメル(朗読)。他に傑作『女の愛と生涯』、『《ミニョン》歌曲集』、『メアリー・スチュアート歌曲集』という女声用、女性の詩による作品が収録されている。

『女の愛と生涯』といえば、最近はマティアス・ゲルネのような男声(バリトン)/男性歌手が、『女の愛と生涯』をリサイタルで歌った、なんていう話も聞いたりする。ゲルネのバリトンによる『女の愛と生涯』は聴いてみたいな。

Complete Works 155 CD Box Set

Complete Works 155 CD Box Set

なんと言ってもこれ、155枚組のJ.S.バッハ大全集。BRILLIANTは本当に凄い。まだ10分の1ぐらいしか聴いていないけど。ゆっくりと毎週一枚ぐらいずつ聴いていきたい。



[関連エントリー]