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情報収集と盗聴は違う? NSA盗聴疑惑



クーリエ・ジャポン』(6.15/2006 #014号)に”ブッシュ政権を揺るがすNSA「盗聴疑獄」の全貌”という記事が載っていた。

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2006年 6/15号

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2006年 6/15号


これは9・11同時多発テロ以降、米通信事業会社のAT&T、ベライゾン、ベルハウスの3社が顧客の通信記録を国家安全保障局NSA、National Security Agency)に提供し、それを元にNSAが巨大なデータベースを作成、米国内の「すべての通話」をモニターしていた、という疑惑だ。『ニューヨーク・タイムズ』が検証した。

もちろんブッシュ大統領は「米国民のプライバシーは厳重に保護されている」と語った。だが、匿名の政府高官によれば、NSAは米国内の電話通信記録のほぼすべてを保持しているという。
記事では、NSAの活動を擁護する共和党とそれを批判する民主党及び市民活動家の攻防が描かれているのだが、それよりも興味を惹くのは、「情報収集と盗聴は違う」というブッシュ大統領らが示したロジックである。
大統領はNSAの活動自体を「肯定も否定もしていない」。しかし「電話通信記録の収集」と「通信傍受」の違いを強調している。

専門家によれば、電話通信記録は電話番号、通話日時やそのほか細かなデータを含むが、通話内容までは把握できないようだ。また、氏名と住所も通信記録に載っていないが、他の資料を参照すれば個人の特定は可能だ。

情報収集をめぐる法律には曖昧な点が多く、「令状なしの通信記録の収集は犯罪だ」と主張する専門家がいれば、「政府発行の国家安全保障書簡に応じたものならば、電話通信記録の収集は法律に抵触しない」と述べる法律家もいる。
では、「通信傍受(盗聴)」でない「通信記録の収集」が、いかにしてNSAのテロ対策──端的に言えばアルカイダ分子の監視に役立つのか。『ワシントン・ポスト』が記している。

たとえば、ある人が携帯電話を失くして、新しい番号に変えたとする。その新しい番号をどうしても知りたいとき、どうすればいいか?
答えは「全米の通信記録をすべて集めればいい」だ。どんな人にも、配偶者、子供、会社、ゴルフ仲間など決まって電話する相手がいる。全米の通信記録を集め、その通話パターンさえ解析すれば、通信傍受をしなくても、知りたい電話番号を突き止められるというわけだ。

問題は、通話パターンの解析後、NSAが米国市民の電話と電子メールを令状なしに監視したのではないか、という点だ。
またブッシュ大統領によってCIA長官に指名されたマイケル・ヘイデン空軍大将は、NSAの「諜報活動」が開始された当時、NSAの局長を務めていた人物。ヘイデンは「通話パターン解析」の威力をスーパーボウルを例に出し……

スーパーボウル当日の通信記録さえ入手すれば、時間帯や通話パターンの解析を通して、出場チーム、試合経過、優勝チームといった情報を、実際に試合を見ることなくすべて把握できると豪語したのだ。


しかしそんなマイケル・ヘイデン(ハイデン)を、『チャター―全世界盗聴網が監視するテロと日常』の著者パトリック・ラーデン・キーフは辛辣な目で見ている。

ハイデンの時代というのは、かつてNSAが経験したことのないようなオープンな時期だった。しかし、ハイデンが公衆の面前に登場し、発言を残すたびに、機関としてのNSAにとっては墓穴を掘る行為となったのだ。




パトリック・ラーデン・キーフ『チャター』p.183