HODGE'S PARROT

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流れよわが涙、と元ポリスのスティングは言った




最近の古楽サウンドの隆盛には目を見張るものがあるが、あのロック・スター、スティングが新作『ラビリンス/Songs from the Labyrinth』を引っさげて古楽業界に登場した。
歌うはジョン・ダウランド(John Dowland、1563-1626)。レーベルはドイツ・グラモフォン(DG、Deutsche Grammophon Gesellschaft)──クラシック音楽最大手とも言える、あの黄色いレーベルからだ。

ラビリンス

ラビリンス



ダウランドのレコードはすべて聴きました。クラシックの演奏家たちの貢献に対しては、心から敬意を表します。私はそういう声ではありません。ポップシンガーですから。でも自分には他の人とはちょっと違うものができるのではないかと思い、作ったんです。いいとか悪いとかではなく、ただ「違う」ものをね。




スティング インタビュー『レコード芸術』(2006年10月号)より


そしてダウランドと言えば、なんといっても『流れよ、我が涙』(Flow My Tears)が有名だろう。

Flow, my teares, fall from youre springs,
Exiled for ever, let mee mourn
Where night's black bird hir sad infamy sings,
There let mee live forlorn.



John Dowland [Wikipedia EN] より


この「Flow My Tears」は、Wikipedia にも記されているように、元ポリスのスティングだけではなく、SF作家の御大フィリップ・K・ディック──クラシック音楽マニアとして知られている*1──の小説『流れよわが涙、と警官は言った』(Flow my Tears, the Policeman Said ) にもインスピレーションを与えた。フィリップ・K・ディックは大のダウランドのファンだという。

The science fiction author Philip K. Dick was a big fan of Dowland's and his lute music is a recurring theme in Dick's fiction. Dick sometimes assumed the pen-name Jack Dowland. Dick also based the title of the novel Flow My Tears, The Policeman Said on Dowland's best-known composition. In his novels, Dick theorized that in a future America Dowland songs would be covered by a pop singer named Linda Fox (a thinly disguised stand-in for Linda Ronstadt).

Flow My Tears, the Policeman Said (Vintage)

Flow My Tears, the Policeman Said (Vintage)

流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)

流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)



『流れよ、我が涙』(ラクリメ)は、スティングのアルバムにも収録されている。それは、エディン・カラマーゾフ(Edin Karamazov)演奏のリュートの調べとともに、親密感と臨場感を持って、吟われるものだ。「親密感と臨場感」こそがこのアルバムで最も聴いてほしいところだとスティングはインタビューで語っていた。

*1:例えば『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』でリック・デッカーがモーツァルトの『魔笛』の歌詞を思い出して涙ぐむところ。ルーバ・ラフトに「あなたはシュワルツコップよりもすばらしい」と言うところ。印象的なシーンだ。