朽木ゆり子『フェルメール全点踏破の旅』(集英社新書)は、いい。新書で、フェルメール全37点をカラーで見られ、しかも読み応えのある解説付きなのだから、これはもう買い、でしょう。
- 作者: 朽木ゆり子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/09/15
- メディア: 新書
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稀代の贋作家ハン・ファン・メーヘレンのことが書いてあるのも嬉しい。小池一夫の『オークション・ハウス』を思い出す。また、「最新の」フェルメール作品『ヴァージナルの前に座る若い女』も観ることができた──贋物っぽいけどね(笑)。
- 作者: 小池一夫,叶精作
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1991/01
- メディア: コミック
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ちなみに僕は、ウィーン美術史美術館、ロンドン・ナショナル・ギャラリー、ルーブル美術館(パリ)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)、フリック・コレクション(ニューヨーク)には行ったことがあるので──そして『真珠の耳飾りの少女』は日本で観たことがあるので──後は、ベルリン、ドレスデン、アムステルダム、ロッテルダム、ワシントンDC,フィラデルフィア、そしてバッキンガム宮殿に行けば、ほぼ全点観たことになるかな。
まだまだ、全点踏破の旅は、長い。
そうそう、フェルメールの全作品を一挙掲載したものには、雑誌『ブルータス』(1996年9月1日号)の特集「君はフェルメールを見たか?」があった。このときは36点が全作品だったんだよね。以前書いたものをこちらにも。
●BRUTUS 9月1日号 1996 「君はフェルメールを見たか?」
雑誌「ブルータス」のアート特集。とくにこの号は永久保存版と言ってもよいだろう。なんといってもフェルメールの全作品36点がすべて掲載されている。しかも(短いながら)各絵の解説付きだ。そう、450円でフェルメール通になれる。
いちおう参考までに僕のフェルメール・ベスト3を書いておくと
- 『秤をもつ婦人』(ナショナル・ギャラリー、ワシントン) 静謐すぎて怖いくらい。
- 『デルフトの眺望』(マウリッツホイス美術館、ハーグ) とにかく美しい。
- 『絵画芸術』(美術史美術館、ウィーン) この完璧さは譲れないね。
あとワーストも(何様だ!)
- 『信仰の寓意』(メトロポリタン美術館、ニューヨーク) ゴテゴテしすぎ、つまり下品。
- 『フルートを持つ娘』(ナショナル・ギャラリー、ワシントン) 偽物じゃない、これ。
- 『ディアナとニンフたち』(マウリッツホイス美術館、ハーグ) 題材からして、らしくない。
それにしてもさすがはブルータスだなあ。まあ、ちょうど1995、1996年にワシントンとハーグで行われた空前絶後の「ヨハネス・フェルメール展」でのブームがあったにしても、これほど熱のこもった特集が「一般男性誌」で組まれるなんて。いや、「一般男性誌」だからこそ、美術専門誌にはない切り口で記事が書かれている。マンガの『オークション・ハウス』の話題とか、ピーター・グリーナウェイのインタビューとかとても面白い。
その中でも一番関心を惹いたのが、フェルメールの贋作を制作し、ナチスをまんまと手玉に取った贋作画家ハン・ファン・メーヘレンについて。メーヘレンが描いた贋作『エマオの晩餐』がいかに「本物」(フェルメールの新発見)として認知され、センセーショナルを引き起こしたのかがとても面白く書いてある。
なんでも『エマオの晩餐』はあまりフェルメールらしくなかったので、そのために、「本物」として扱われたそうだ。逆にいかにもフェルメールな贋作『楽譜を読む女』、『シタールを弾く女』はすぐに贋作だとバレてしまうそうだ。
でもメーヘレン『楽譜を読む女』、『シタールを弾く女』の2作は本当によく出来ている。フェルメール以外にもフランス・ハルスの贋作(『パイプを吸う青年』)やピーテル・デ・ホーホの贋作(『トランプをする人々のいる室内』)を見ると、ホント、メーヘレンって天才じゃないかと思う。
白状すると、このメーヘレンの「作品」をいくつか見られたことが、一番の収穫のように思える(だってフェルメールの作品は他の画集なんかでも見られるしね)。
メーヘルンのまとまった画集とかあったら見てみたいし、「メーヘルンと贋作美術展」なんていう気の訊いた展覧会、どこかで開かれないかな、と思う。