HODGE'S PARROT

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マクナマラの法則

共同通信外報部記者、仲晃による『パクス・アメリカーナの転回』には、キューバ危機の対応をめぐるケネディ米政権内での「対決のドラマ」が描かれているのだが、ここで興味深いのは、通常、「タカ(強硬)派」と「ハト(穏健)派」の二項で論じられるところを、第三項の存在を導入したユニークな議論を紹介しているところだ。
第三項とは──「フクロウ派」と呼ばれるポジションのことである。

「伝統的な」タカ派ハト派の分類に対し、フクロウ派を加えた「修正主義的な」分類を提唱しているのは、ハーバード大学のジョゼフ・ナイ教授らのグループ。彼らがフォーリン・アフェアーズに発表した論文によると、キューバ危機における三派の色分け=「リトマス試験紙」は以下のようになる。

  • タカ派 ソ連キューバに構築したミサイル基地に対する空襲ないしアメリカ軍のキューバ侵攻を支持する。場合によっては両作戦とも実施。
  • ハト派 一切の軍事力の行使に反対する。海上封鎖も軍事作戦に含まれるので不可。ソ連キューバ・ミサイル基地とアメリカがトルコに持っているミサイル基地の相互撤去による交渉解決。
  • フクロウ派 比較的おだやかな軍事力の行使である海上封鎖を支持。これによって政策に柔軟性を持たせ、情勢の変化に応じ、ハト派ないしタカ派の立場に移行できる。



仲晃『パクス・アメリカーナの転回』(岩波書店)p.59

この「新しい」分類は、ハト派を二つに分け、一つを「原理主義派」、もう一つを「現実派」とするものだ。フクロウ派の中心人物として、マクナマラ国防長官、バンディ大統領補佐官、ボール国務長官の三人をナイ教授らは挙げている(そして仲晃氏は、この分類に従えば、究極のフクロウ派は、ロバート・ケネディ司法長官であり、最終決定を下したケネディ大統領だと述べる)。
言うまでもなく、キューバ危機の勝利者は、フクロウ派である。

で、そのフクロウ派の中心マクナマラ国防長官であるが、彼は米国防総省に「費用対効果比」というビジネス原則を持ち込み国防計画の徹底した合理化を図った人物で、

キューバ危機が起きたとき、シビリアン・コントロールの原則を貫き、軍部などからあやまったサインがソ連側に送られることのないように神経を集中した。




p.63-64

またロバート・マクナマラは、有名な発言を残している。キューバ危機から25年後のホークス・ケイ会議でのこと、ソ連との核戦争が「あったかもしれない」ことを強く意識してのものだ。後の人々は、これを「マクナマラの法則」と呼んでいる。

軍事力の行使がどのような効果を生むかを確信をもって予測するのは不可能である。事故の可能性、誤算、思いちがい、それに思いがけない展開があるからだ。
そして彼はこうつけ加える。
私の考えでは、この法則はホワイトハウスペンタゴンの出入口に掲示されるべきである。キューバ危機の最大の教訓はこれ以外にない。




p.65

パクス・アメリカーナの転回―ジャーナリストの見た現代史

パクス・アメリカーナの転回―ジャーナリストの見た現代史