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キャリア女性は欧州より米国のほうが働きやすい




ニューズウィーク日本版』(2006-3・8号)より、ラーナ・フォルーハー「女性にやさしいなんて嘘だった?」(Myth & Reality)。男女平等が実現したと思われているヨーロッパで、キャリアウーマンが苦難を強いられている、という内容だ。

女性がトップの地位に就く可能性が高いのは、ヨーロッパかアメリカか? という男女格差についてのクイズから記事は始まる。米/欧の事情は以下のとおり。

  • アメリカの場合、出産休暇は12週間のみ。託児施設への政府の助成はほとんどなし。父親には育児休暇は与えられない。仕事は、もちろんハードだ。
  • 欧州の場合。出産後に5ヶ月から3年の有給休暇が取れ、託児施設のサービスも充実。政府は企業に対して働きやすい労働環境をつくるよう促している。


これだけ見ると、ヨーロッパのほうが「女性にやさしい」ように思える。しかしながら、トップを目指す女性(キャリア女性)にとっては、米国のほうが断然有利なのだ。なぜか。

事実を見てみよう。ILO(国際労働機関)が2005年に発表したレポートによると、議員や政府高官、企業の管理職など、「意思決定に携わる」人々の女性の割合は、

アメリカ   45%
イギリス   33%
スウェーデン 29%
ドイツ    27%
イタリア   18%

となる。
これは、ラーナ・フォルーハーによると、欧州で女性が家庭に閉じ込められているわけではなく、問題は、働く女性の可能性を最大限に生かしていないことだという。職を得ることができても「重要なポストに就くこと」が、欧州では米国に比べ困難なのだ。
フォルーハーは、女性を助けるための手厚い福祉政策が、逆に女性の力を奪っている、と断言する。

長い育児休業や、共働きが不利になる税制などによって、ヨーロッパは女性の才能を無駄にしている。女性は出産後、長期にわたって仕事から離れるばかりではなく、職場に戻らないことも多い。

長い休暇が取得できることによって、企業経営者は、女性の雇用や昇進に消極的になってしまう。それに加え、ヨーロッパでは、女性が仕事と家庭を両立させやすいフレックスタイム制度を導入している企業が少ない。したがって、女性は、パートタイム労働を選ぶことが多くなる。

ヨーロッパの労働市場は、報酬のいい安定した仕事と、専門性の低い不安定な仕事にほぼ二分されている。そのせいで、パートタイムから、条件のいいフルタイムの仕事に移れる可能性は低い。


しかもだ。ヨーロッパではアメリカのように集団訴訟が認められていない。民間企業に対する差別訴訟では、立証義務が原告にある。したがって、差別待遇を告発/是正する法廷闘争が不利/不可能になる。この司法/裁判制度の差異はとても重要だろう。

そして古い税制の問題。ヨーロッパ諸国の大半の税制は、家計の担い手は一人という前提でつくられている。働かないで専業主婦でいたほうが税金が安くなる場合が多い。とくにドイツでは、「一つの家計」に二人の働き手がいると、法外な税金が課せられる。健康保険にしても、専業主婦は無料だが、共働きの場合は、高い保険料が算定される。


人権意識の高い欧州といえども、このような「制度の壁」や保守的な女性観が根強く残っている──フランスのエリート教育機関であるグランゼコール高等専門学校)が、女性を受け入れたのは70年代以後のこと、ドイツの実業界でも最近やっと女性に門戸を開いた。
調査によると、ヨーロッパの大企業200社の役員会に女性が占める割合はわずか8%。アメリカの場合は14%。

アメリカに比べて、企業文化が序列重視で柔軟性に欠けている点も改善を要する。アメリカのベンチャー企業などのように、形式にこだわらず、能力重視の環境だと、女性も活躍しやすい。

労働市場の改革を進めることが必要である。そして女性が働きやすい環境、とくに「柔軟な勤務体系」の導入が求められる。

同じ職場で机を並べて仕事をするのが大事だという風潮も、アメリカよりずっと強い。「課題達成ではなく、指揮系統を重視する経営のあり方に問題がある」と、英労働財団のアレグザンドラ・ジョーンズは指摘する。「勤務時間の長さを評価基準とする職場なら、必然的に女性は不利になる」
生産性が、社員がオフィスにいる時間の長短と無関係なことはすでに研究から明らかだ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスが1月に発表した研究によれば、世界有数のグローバル企業ほど、フレックスタイムやワークシェアリング、在宅勤務の実施度が高い。

ところで、この記事は欧州とアメリカを比較したものであり、日本については直接言及されないのだが、「パートで働く男性と女性それぞれの割合」という ILOOECD の統計が目を惹く。

アメリカ     男性 8%   女性19%
EU        男性 6%   女性29%
カナダ      男性11%   女性27%
日本       男性14%   女性42%
オーストラリア  男性16%   女性41%

これを見ると、日本とオーストラリアが、男女とも、米欧と比べパートタイマーの職に就いている人の割合がかなり大きいことがわかる。失業率よりも「正規雇用率」の方が、米欧との比較において重要だろう。