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ロシア、高まるスターリンへの評価

欧米の政策決定者はロシアにおける民主体制の弱さを伝える不快なニュースをむしろ無視しようとしているかにみえる。こうした姿勢が、06年7月にサンクトペテルブルクで開催が予定されている、次のG8サミットまでに見直されそうな気配もない。
米軍がイラクに足を取られるなか、アメリカの指導者は目下のところ他の地域に目を向ける余裕がない。「民主化に向けたロシアの試みは挫折した」と単に宣言することには関心を示しても、「ソビエト時代の危険な遺産に悩まされるロシアという扱いにくい新同盟国にどうすればうまく対処できるか」という困難な課題に取り組むことはないだろう。




サラ・E・マンデルソン&セオドア・P・ガーバー「ロシアの若者の歴史認識を問う」(『論座』2006年3月号) p.290

フォーリン・アフェアーズのサラ・E・マンデルソン&セオドア・P・ガーバーによる「ロシアの若者の歴史認識を問う 高まるスターリンへの評価」(朝日新聞社論座』2006.3号)を読む。

もちろん、ロシアにおける最初のゲイ・イベントである「モクスワ・プライド」が、国粋主義者や当局によって妨害されたことを考えてのエントリーだ。

Московскому гей-прайду - быть!


戦略国際問題研究所CSIS)シニア・フェローのマンデルソンとウィスコンシン大学マディソン校社会学教授ガーバーが指摘しているのは、ロシアの若者に見られる、スターリンに対する「あいまいな」態度である。彼らにとってスターリンは「膨大な規模の人々を死に追いやって苦しませた張本人」として「認識」されていない。むしろスターリンが「前向きに」評価されてきている現状がある。「もしスターリンがよみがえり、大統領選に出れば支持するか」という質問に、「絶対に支持しない」と答えた人は40%未満だという調査がある。

これがヒトラーに対するドイツ人の態度だったとしたら、国際社会はドイツへの危機意識が高まるだろう。しかるに、ロシアの「危険なトレンド」は見逃されている、というのが二人の研究者の意見である。

ここには「歴史的な記憶の喪失」がある。スターリンに対する「あいまいな」評価──例えば、スターリン路線には弊害もあったがより大きな利益をもたらした、抑圧体制をめぐるスターリンの役割が誇張されている──が危険なのは、そういった歴史認識の欠如/歴史的な記憶の喪失が、具体的な政治的流れをつくり出してしまうからだ。過去をどう捉えるかによって、歴史をいかに現在に位置づけるかが決まるからだ。

ゴルバチョフ大統領のペレストロイカ期には歴史の再検証が熱心に行われた。しかしその後、ロシアの歴史教科書はスターリン時代の批判的記述を控えるようになった。スターリンの抑圧体制と第二次世界大戦の役割を包括的に論じたイゴール・ドルツスキーの『20世紀ロシア国家の歴史』は、プーチン大統領の許可を得たロシア教育当局によって、公的教育機関の指定教科書リストから外された。

ブッシュ政権プーチン大統領に対して、05年5月の第二次世界大戦・欧州戦線終結60周年記念式典の演説で、1939年のモロトフ・リッペントロップ合意(独露秘密協定)を批判するように求めたが、プーチンはこれをはっきりと拒絶した。




p.294

この論説には、プーチン大統領への批判が──あからさまにではないが──見受けられる。それはそうだろう。過去の歴史をどう現在に位置づけるのかは、時の為政者の判断に多くを拠っているのだから。
「グラーグ」(強制収容所)という言葉が「何を意味するのか」がわからない若者もいる、とマンデルソンとガーバーは指摘する。