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ミュリエル・スパーク死去

HODGE2006-04-15

英国の作家ミュリエル・スパーク(Dame Muriel Spark)が亡くなった。88歳だった。


Obituary: Dame Muriel Spark [BBC NEWS]
Author Muriel Spark dies in Italy [BBC NEWS]

The Scottish-born writer, who was 88, wrote more than 20 books, winning numerous literary awards.


As well as writing fiction, Dame Muriel also wrote critical studies of Emily Bronte and Mary Shelley.


The mayor of the Tuscan village of Civitella della Chiana confirmed the author died in hospital on Thursday.


Her funeral is set for later on Saturday.


Dame Muriel was considered one of the liveliest literary talents in her more than 50 years of publishing.


ミュリエル・セアラ・カンバーグ(Muriel Sarah Camberg)は1918年、ユダヤ教徒の父、長老派(Episcopalian)の母の娘として、スコットランドの首都エジンバラに生まれた。

若島  エマ・テナントはスコットランド人なんです。だからスティーブンソンなど、スコットランド出身の作家の名作を書き直している。


宮脇  スコットランドの人って、けっこうおかしくありませんか(笑)。ミュリエル・スパークもたしかエジンバラの出身だし。


若島  あのへんのボーダーにいるあたりが一番アブない(笑)。





若島正宮脇孝雄「変な小説を読みたい  対談/『ガリバー旅行記』から『香水』まで」(早川書房『ミステリマガジン』1992年5月号より)


南ローデシアで結婚し、そして離婚したミュリエルは、第二次世界大戦中の1944年にイギリスに帰国、英国外務省政治情報局に勤め、反ナチ宣伝活動に助力した。

In a bombed-out London, though she was determined to become a professional writer, Dame Muriel worked in intelligence, producing political propaganda.

戦後は商業雑誌の編集に携わりながらも、文学/詩作への興味を失わず、 『ポエトリー・レビュー』(The Poetry Review)の編集長になった。そして1950年に『ワーズワズ讃』(Tribute to Wordsworth)、1951年にメアリー・シェリーの評伝『光の子』(Child of Light)、1953年にはエミリー・ブロンテの評伝『Emily Bronte』を出版した。

また、作家ミュリエル・スパークを語る上で避けて通れない重要な出来事がある。それは「改宗」という信仰に関する問題だ。ミュリエル自身は英国国教会の洗礼を受けたが、1953年にアングロ・カトリックに改宗、1954年にはローマン・カトリックに改宗した。

She converted to Catholicism in 1954, after having passed over Anglicanism as not being a sufficiently old enough tradition. Britain's most renowned Catholic writers, Graham Greene and Evelyn Waugh, gave her both encouragement and monetary support.

若島  さきほど話に出た<ブラック・ユーモア選集>も、ぼくにはほとんど奇想小説として読める。ボリス・ヴィアンとかローラン・トポールイーヴリン・ウォーもイギリスの小説家の中ではどう考えてもおかしな人で(笑)。『黒いいたずら』などを読むと、伝統からはみだしたおかしさのようなものを感じます。


宮脇  ウォーはカトリックに改宗したからおかしくなった(笑)。




若島正宮脇孝雄「変な小説を読みたい」


Muriel Spark, Novelist Who Wrote 'The Prime of Miss Jean Brodie,' Dies at 88 [NY Times]

Critics have disagreed on how to classify her work, which is alternately bleak and side-splitting. John Updike spoke of "fun-house plots, full of trapdoors, abrupt apparitions and smartly clicking secret panels." Barbara Grizzuti Harrison called her a "profoundly serious comic writer whose wit advances, never undermines or diminishes, her ideas."


Taking the opposite view, Robert Maurer questioned the emotional underpinnings of her fiction, writing, "One wonders how vast a reserve of sympathy lies beneath the iceberg of her consciousness, and how far beyond trickery her work would go if she let it show through."


Ms. Spark said in several interviews that she would rather not fit neatly into any literary category. "I have a comic strain, but my novels are serious," she said in 1993. "Sometimes one makes one's own category, you know."

僕は一時期ミュリエル・スパークの作品の虜になっていたことがある。とくに早川書房から翻訳された3作──『運転席』(The Driver's Seat)、『邪魔をしないで』(Not to Disturb)、『ホットハウスの狂影』(The Hothouse by East River)には、まったく圧倒された。
また、『死を忘れるな』(Memento Mori白水社)や『シンポジウム』(Symposium、筑摩書房)、『マンデルバウム・ゲイト』(The Mandelbaum Gate、集英社)といった「異様な」作品も強烈だった。ミステリ仕立てなのだが、謎は解決されず、なんとも言えない読後感が残る。
自由奔放な想像力と華麗な技法を駆使し、「死を題材にした形而上学的なブラック・コメディ」を上演するスパークの世界は、まったく魅力的だ。

そして、一貫して目立つのは「死」の意識である。それが中心主題となっているのは『死を忘れるな』だが、その他の作品でも死の意識はたえず底流として流れていて、それが逆に生の意味を照らし出す働きをしている。スパークの世界には、超自然的な、あるいは神秘的な世界が当然のこととして含まれているのである。
同じことは「悪」についても言えるであろう。悪もまた、人生のいわば不可欠な要素として認知されているのであり、むしろ悪があってこそ善が成り立つという前提に立って、主題は展開する。これは、あきらかにカトリック的な立場と考えていいだろう。
彼女の作風は、たしかにユニークと言っていい。




小野寺健「解説 スパーク」(集英社ギャラリー[世界の文学]5より)p.1371-1372

若島  ジャンル分けしようと思えば、異常心理ものに入れることはできるけれど、(シャーリー・ジャクソンには)妙な作品が多い。早川書房から出ている『こちらへいらっしゃい』という短編集のなかに、けっこうその手のものがまじってますね。「夜のバス」「ある訪問者」とか。ジャクソンはアメリカ人ですが、イギリスでそれに対応するケッタイなおばさんといえば、ミュリエル・スパークがいる。


宮脇  あの人もカトリックになってからおかしくなった(笑)。


(中略)


宮脇  とちゅうから現在形で書いているんですよね。クスリでもやりながら書いているんじゃないかと思えるところがある。


若島  ほんとうにおかしな人らしいですね。一種のグロテスクだと言えるでしょうけれど、死ぬということをなんとも思っていないようなところがある。友人から聞いた逸話ですが、スパークがアメリカに講演旅行に行った。ところがちょうどケネディが暗殺されて、講演後のパーティが中止になったんです。それをスパークは、ケネディが死んだのは神様が望んだことなのにどうして中止するのかと不思議がった(笑)。そういう話はいっぱいあるそうですよ。




若島正宮脇孝雄「変な小説を読みたい」


ミュリエル・スパークがつい最近まで生きていたこと、そして今はもう亡くなってしまったこと──そのことがとても奇妙に思える。メメント・モリ



シンポジウム

シンポジウム

Drivers Seat

Drivers Seat

Memento Mori (New Directions Classics)

Memento Mori (New Directions Classics)

The Mandelbaum Gate

The Mandelbaum Gate