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生き生きとした相対主義者、その名はソフィスト




そういえば、ジルベール・ロメイエ=デルベ著『ソフィスト列伝』については以前、感想を書いていたんだった。こちらにも転載しておこう。


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ソフィスト列伝』(ジルベール・ロメイエ=デルベ 著/神崎繁、小野木芳伸 訳、白水社 文庫クセジュ



プラトンがその対話篇の中で徹底的に「やり込めた」連中……ソフィスト。しかしその作品に登場するソフィストたちは、なかなか個性的でキャラが立っており、主役ソクラテスのバイ・プレイヤーとして案外欠かせない存在なのではないだろうか。ほとんどベッカムばりのアイドルとして描写されるプロタゴラス(もちろんプラトン一流の皮肉だろう)をはじめゴルギアス、ヒッピアスなど、プラトンの冴えた──あるいは意地悪な──筆致によって、彼らは「生き生きと」活写されている。

この本はそんなプラトン(そしてアリストレテス)によって悪者にされたソフィストたちの「復権」を目指し、彼らの個性的な人物像&思想を紹介している。つまりプラトンアリストテレス連合というあまりにも強大な西洋哲学史の主流を向こうにまわし、反主流の思想にスポットを当てているというわけで、そういった意味で野心的であり、ポストコロニアルの時代に読むに相応しい著作とも言える。
もちろんそんな大仰に構えなくても、プラトン作品に登場する「キャラクター」との比較、あるいはそこから、プラトンがいかにそれらソフィストを「キャラクタライズ/戯画化」したのを知ることができる好著だと思う。とくに日本ではこれまでソフィストに関するまとまった本は田中美知太郎の『ソフィスト』以外ほとんどなかったので、この本が刊行されて嬉しい限りだ。
プラトンの著作に登場する「弱論強弁」のキャラクターも、ここでは真っ当な思想家として扱われており、彼らの唱える「知識」もそれぞれ独特でとても面白かった。

中でも興味を惹いたのがアンティフォンという人物。彼はプラトンの作品には現われないが、その発言は傾聴に値する。彼は徹底した現世主義者であり、よって「生」にも「死」にも極めて真摯な態度を取っている。

したがって、自分の生を、彼岸の生に備えるために送ることがあってはならない。彼岸の生などというものは実際には存在せず、われわれから現在の人生の時間を盗みとるものなのである




p.127

また法律を「自然に反するもの」として糾弾しているのも、(悪)法に殉じたソクラテスと見事な対象を成し興味深い。もしプラトンがアンティフォンを作品に登場させたら、ソクラテスの好敵手として、かなり白熱した議論が展開されたのではないだろうか。

もっともいかにも「ソフィスト的」ともいえるプロディコスような人物がいて、彼は同性愛を非難している。こういったバカなソフィストがいるからプラトンに「やり込められる」んだ、と改めて思った。

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今思うと、ソフィストってポストモダンって感じだな(というより「ポモ」かな)。とくに「法の脱構築」なんて、アンティフォンがつねにすでにやっていたのかと──そしてプラトンの作品の中で、ソフィストたちがなんと「生き生きと」していたことか!
スラヴォイ・ジジェクがポストモダニストたちを「新ソフィスト」と貶すのが、わかるわかる。


ソフィスト列伝 (文庫クセジュ)

ソフィスト列伝 (文庫クセジュ)