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戦術失敗、戦略上等  ライス長官イラク戦争について語る




イギリス訪問中のコンドリーザ・ライス国務長官は3月31日、ブッシュ政権の対イラク政策について言及し、アメリカは数多くの「戦術」的誤りを犯したという考えを示した。その一方で、フセインイラク政権の脅威に対処するための「戦略」それ自体には間違いはなかったと付け加えることも忘れなかった。

イラク政策、多くの戦術的誤り犯した=ライス米国務長官 [Yahoo! News]

同長官はストロー英外相の招待に応じて訪れたブラックバーンで演説した際、2003年のイラク侵攻から教訓を得たかとの質問に対し「我々は戦術的な誤り、それも非常に多くの誤りを犯した」と答えた。一方で「フセイン政権が国際社会にとって脅威となっていたとする戦略的決断は正しかったと確信する」とも述べた。

数千の戦術ミスも戦略は正当、ライス長官がイラク戦争で [CNN]

長官はこの中で、「軍事作戦抜きに、イラクサダム・フセイン(元大統領)は権力を失っていなかっただろう。中東の中心に彼がいる限り、違った中東情勢を見ることは出来なかっただろう」と指摘。


ブッシュ政権のミスについて多数の論文が出てくるだろうが、歴史を振り返った時、裁断を下されるべき要点は正しい戦略的決断だったかどうかだ」とイラク戦争大義を強調した。

Rice admits multiple Iraq errors [BBC NEWS]

"I know we've made tactical errors - thousands of them, I'm sure," Ms Rice said in a session of questions after her speech, organised by BBC Radio 4's Today programme and Chatham House international affairs institution.


"But when you look back in history, what will be judged is did you make the right strategic decisions," she said.


さすがはクラウゼヴィッツ理論を継承する戦略家コンドリーザ・ライスの発言だ。「戦略」と「戦術」を明確に区別し、「戦術」での失敗(tactical errors)は認めても、「戦略」は正しかった(right strategic decisions)と主張する。言うまでもなく「戦略の失敗を戦術で補うことはできない」。

この英ブラックバーンで成されたライス国務長官のスピーチには、他にもアメリカの外交政策について重要なキーポイントが示された。BBCより引用しておきたい。

  • no-one should doubt America's commitment to justice and the rule of law
  • the US had no desire "to be the world's jailer", and that Washington wanted "the terrorists that we capture to stand trial"

  • the cause of advancing freedom was the greatest hope for peace today
  • the use of force "is not what is on the agenda now" in the stand-off over Iran's nuclear programme - adding that President Bush "never takes any option off the table"
  • the US and Britain should continue to have "extremely close" relations and be united in the fight against terrorism

ちなみにウィキペディアの「コンドリーザ・ライス」の項を見ると、彼女の政治思想は以下のように紹介されている。

アメリカ屈指の戦略家であり、オフェンシブ・リアリスト(攻撃的現実主義者)と評される。バランス・オブ・パワーを破壊しようとする勢力には当然に武力行使も選択肢に入れた対応をしなければならないとする立場であり、クラウゼヴィッツ戦略学の正統に位置するとも言える。

Condoleezza Rice: U.s. Secretary Of State (Journey to Freedom)

Condoleezza Rice: U.s. Secretary Of State (Journey to Freedom)


また、ライス氏が書いた『The Making of Soviet Strategy』というタイトルの論文が、クラウゼヴィッツ的戦略学の世界的権威ピーター・パレットの論文集『Makers of Modern Strategy: From Machiavelli to the Nuclear Age』に掲載されているとのこと。読んでみたいな。

Makers of Modern Strategy: From Machiavelli to the Nuclear Age (Princeton Paperbacks)

Makers of Modern Strategy: From Machiavelli to the Nuclear Age (Princeton Paperbacks)


[Condoleezza Rice]

実際の戦争は、学問的要素と実際的要素を独創的な想像力を働かせて組み合わせ、構築するという点で、実用的芸術と言われる建築に似ているのではないかとクラウゼヴィッツは言う。だが、戦争は作用・反作用の繰り返しのうちに次第に不活性化する物質の働きとはまるで違う。
彼は『戦争論』の中で、「戦争は国家間の重大な利害関係の衝突を流血によって解決しようとするものである」(第二篇第三章)と言っているが、これは1804年に書かれたノートの中にすでにある。「戦争を芸術にたとえるよりもむしろ商取引にたとえたほうが正確であろう。商取引もまた人間同士の利害関係や活動の衝突だからである。しかし、それよりもはるかに戦争に近いのは政治である。政治はこれまた一種の大規模な商取引のようなものと看做してよい」。




ピーター・パレット『クラウゼヴィッツ 『戦争論』の誕生』(白須英子 訳、中公文庫)p.241

クラウゼヴィッツ―『戦争論』の誕生 (中公文庫BIBLIO)

クラウゼヴィッツ―『戦争論』の誕生 (中公文庫BIBLIO)



また、今回の欧州歴訪中で、ライス国務長官は、ファンであるビートルズゆかりの家も訪れたようだ。
ライス長官、ビートルズゆかりの家訪問 リバプール [CNN]

リバプール訪問は、ストロー英外相の招待によるもので、バラックバーンにもある同外相の生家も訪れる。ストロー外相は昨年10月、米アラバマ州にあるライス長官の生家を訪問しており、答礼の招待となっている。


リバプールで長官はコンサートも楽しむ。


それと今回のライス訪英においては、反戦活動家らによるデモ/抗議活動が「きちんと行われ」、しかもそれをメディアが「きちんと報道している」ことも、一応、記しておきたい。
もっとも、ライス国務長官にとっては、これら反米デモは「想定の範囲内」であることは、言うまでもない。

Rice welcomes democratic protests [BBC NEWS]

Earlier she and Mr Straw had arrived to noise from both protesters and supporters.


"I find them an exercise in democracy, I don't find them off-putting or disconcerting," she told reporters.


Mr Straw described crowds of supporters outside as "remarkable" and dismissed the number of demonstrators as "not large".


"They (protesters) said they were going to get bus loads and bus loads in. Well they didn't do very well," said Mr Straw.


"If they had asked me I could have done better for them."

「プロテスト(抗議活動)」に対して、長官は、歓迎すべきことだと考えている。デモやプロテストは民主政治において不可欠であり、これら──否定的側面──こそが(アメリカの考える)民主主義を支え、「exercise in democracy」の契機となっているのだ。