HODGE'S PARROT

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生は暗く、死もまた暗い  ワルターの『大地の歌』




ブルーノ・ワルター指揮ウィーンフィルハーモニー管弦楽団によるマーラーの<大地の歌>をアナログレコードで聴いた。歌手はユリウス・パツァークのテノール、カスリーン・フェリアーのコントラルト。1952年録音。レーベルはデッカ(キングレコード)。CDはこれ↓

マーラー:交響曲「大地の歌」

マーラー:交響曲「大地の歌」


さすがデッカだけあって、モノラルだが、音質がとても良い。とくに弦のピッチカートが物凄く生々しく録られていて、不自然なくらいよく響く。
演奏自体も素晴らしい。これが「名盤」と言われる所以なのかと納得させてくれる(ワルターはこの曲の初演者でもある)。第一楽章「大地の哀愁を歌う酒の歌」の、あの「生は暗し、死もまた暗し」のリフレーン*1はシリアスさが十二分に伝わってくるし、終楽章「告別」でフェリアーが醸し出すほの暗い雰囲気もたまらない。感動した。


ところで、このマーラーの『大地の歌』(DAS LIED VON DER ERDE)を聴くと、必ず思い出してしまうのが、笠井潔の探偵小説の主人公、矢吹駆だ。それほど、この人物のキャラクターと言動にはインパクトがある。

暗い空と暗い水のあいだの、淡い真珠色に輝く夥しい光の粒子は、星雲にも似て闇の宙空に開いた神秘な異世界の窓だった。流れる微かな口笛は、宇宙の彼方から届いたもののようにわたしの耳に響いた。
マーラーなのね」わたしは小さく呟いた。
「ああ」
「好きなの」
「そう」
「なぜ」
「これはね、彼が偶然に知った唐代の詩人たちの作品を作曲したものだった。……ドイツのロマン主義音楽は、西欧がもっとも宇宙に近づいたその頂点に位置するものだ。だからこの曲は、西欧と極東という地球の両端で発せられた、宇宙の虚無と深遠に向かう魂の祈念の一瞬の交錯、一瞬の神秘の火花なんだ」




笠井潔『バイバイ、エンジェル』(創元推理文庫)p.35-36

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

*1:Dunkcl ist das Leben, ist der Tod.