HODGE'S PARROT

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No.5を聴いて眠る夜

以前、シャネルの香水5番のパロディと思しきポスターがレコードショップに貼ってあった。いかにも外国のファション雑誌に載っているような、いかにもモデル風の金髪の女性が香水瓶を持っている感じのやつ。
ただし、その瓶に描かれている「ロゴ」は、「CHANEL」ではなくて「BEETHOVEN」だった。

こんなことを思い出したのも、カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団演奏のベートーヴェン交響曲第5番のLPレコードを手に入れたからだ。
このレコードは、カラヤン絶頂期とも言うべき70年代に録音されたベートーヴェン全集の一つで(この5番は76/77年録音)、良くも悪くもカラヤンサウンドの典型というべきものだろう。指揮者の統率力を十分感じさせる、重厚で……
……いや、演奏そのものは、実はどーでもよくて、何よりこのレコードが欲しかったのは、ジャケットデザインが気に入っていたからだ。

青空をバックに「数字の5」が燦然と描かれている──このレコードのジャケットデザインは忘れがたい(裏ジャケットを見ると、ホルガー・マッティースという人がデザインしたようだ)。

かつてのクラシック音楽のレコード・ジャケットと言えば、年取った演奏家の、無意味に深刻ぶったポーズを取ったものや、名画や風景写真をただ使っているという感じのもの(廉価盤はだいたいこのパターン)が多かったが、カラヤンの──古典的名曲中の名曲である──ベートーヴェンは、そのジャケットデザインがモダンで斬新的だった(と子供ながら思っていた)。

最近レコードを買って思うのだが、こういったジャケットの放つ「アウラ」も見過ごせない。

ベートーヴェン:交響曲全集

ベートーヴェン:交響曲全集


交響曲のNo.5と言えば、ベートーヴェン以外ではなんといってもマーラー。こちらもカラヤン指揮ベルリンフィル演奏の「レコ−ドジャケット」が印象的だ。
ベートーヴェンでは「数字」であったが、マーラーでは「虹」をあしらったデザイン(ちなみにブルックナーは「羽」で統一されている。テーマは「空」なのか? そういえば、ベートーヴェンブルックナーマーラー交響曲を9番までしか残さなかったな)

マーラーの5番というと、ルキノ・ヴィスコンティの映画『ベニスに死す』を思い浮かべる人が多いと思う。もちろん、『ベニスに死す』における「音楽の使われ方」は、言うまでもなく素晴らしいのだが、それよりも個人的に印象に残っているのは、岩井俊二の『FRIED DRAGON FISH』だ。

この『FRIED DRAGON FISH』。たまたま深夜のテレビで放映されているのを観て、釘付けになった。すごく面白かった。映像がとにかくスタイリッシュで、ドラマもよかった。ハードボイルドというかノワールというか、いや、テリー・ホワイト原作小説をフランスで映画化した作品のような、暴力とセンチメンタリズムの同居が、なんともいえない魅力を放っていた。

劇中、浅野忠信演じる殺し屋?が、「音楽は体で聴くんだ」みたいなことを言いながら、マーラーの5番の、あの「アダージェット」や、ワーグナーの『タンホイザー』(これを聴くとやはりヴィスコンティの『ルードヴィッヒ』を思い出す)を聴くところがある。その何気ないシーンがとても印象的だった。

Mahler: Symphony No. 5 / Karajan, Berliner Philharmoniker

Mahler: Symphony No. 5 / Karajan, Berliner Philharmoniker

FRIED DRAGON FISH [DVD]

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