HODGE'S PARROT

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ヘンリー・ジェイムズ

『幽霊貸家』(The Ghostly Rental, 1876)

まず、この物語の梗概を記しておこう。神学を学んでいる「わたし」が発見する幽霊屋敷、好奇心溢れる「わたし」が発見したその幽霊屋敷に取り憑いている幽霊──その幽霊は父親に死に追いやられた娘の霊であることを「わたし」は突止める。さらに、幽霊屋敷に…

『コクソン基金』(The Coxon Fund, 1894)

タイトルの「コクソン基金」とは、ラルフ・ワルド・エマーソン(Ralph Waldo Emerson, 1803-1882)らの 超絶主義哲学に影響を受けたボストンの女性がイギリスに渡り、英国人コクソン卿と結婚(コクソン夫人になり)、その夫の遺産を「真面目で誠実な探究者」…

『オズボーンの復讐』(Osborne's Revenge, 1868)

ヘンリー・ジェイムズ最初期の作品。舞台はアメリカ。ここではまだ、出来事を「暗示的に迂回的に」──どのようにも取れるように、どこか操作的に──物語っているような気配は、それほど感じられない。むしろ「あからさま」な叙述に戸惑い、それゆえ警戒したく…

『ルイザ・パラント』(Louisa Pallant, 1888)

「どんな人の心に関しても究極のことを知っているなどとうそぶくべきではない」と語り手である「私」は冒頭で述べる──だったら読者はこの一人称小説の「私」が何を知っていて何を知っていないのか、あるいは知っていることをどのように語っているのか、どの…

『死者の祭壇』(The Altar of the Dead, 1895)

ときどき彼(ジョージ・ストランサム)は、友人の誰かが今すぐにでも死んでくれないものかと思っている自分に気づく。そうすれば、こんなふうにして、生きていたときに享受していたよりはるかに魅力的な関係を、彼らにたいして、打ちたてることができるだろ…

『智慧の樹』(The Tree of Knowledge, 1900)

冒頭、ピーター・ブレンチという中年の独身男性について作者はさりげなくそのキャラクターの情報を読者に提供する──そしてこの人物の視点を通してこのドラマは機能することになる。彼は友人の彫刻家モーガン・マローの作品について当人を前に何も「批評」し…

『ノースモア卿夫妻の転落』(The Abasement of the Northmores, 1900)

「あの人(ノースモア卿)は、あなたをけっして認めてはいなかったけれど、あなたを手放そうともしなかった。あなたはあの人を立てづつけ、あの人はあなたを押えつづけた。最後の一滴までしぼりとるまであなたを利用しつづけたのよ。いいえ、最後の一滴は残…

『本当の正しい事』(The Real Right Thing, 1899)

「すると、あなたもお感じになるのですか?」とジョージ・ウィザモア青年は未亡人に尋ねた。ウィザモアは三か月前に亡くなった著名な作家アシュトン・ドインの伝記を執筆する依頼を受けた──それはドイン夫人直々の指名だった。「主人はあなたが一番好きでし…

『第三者』(The Third Person, 1900)

これまで出合ったことのなかった二人の女性に遺産としてイギリスの地方の屋敷が贈られた。売却して折半してもよかったのだが、二人は互いを仔細に「観察」し、その結果、屋敷を売らないで一緒に共同生活をすることに決めた──ミス・スーザンとミス・エイミー…

『ある問題』(A Problem, 1868)

ヘンリー・ジェイムズの最初期の短編小説──中村真一郎の『小説家ヘンリー・ジェイムズ』の分類に従えば「習作時代」の作品であり、その小説家による小説家についての著書でも紹介されていなかった。 『ある問題』は作者が「読者の皆さん」にこんなお話があり…

ヘンリー・ジェイムズ『エドマンド・オーム卿』

『ねじの回転』では、本当に幽霊が出現したのか、それとも家庭教師=話者の妄想なのか、という議論が巻き起こるが、同じく幽霊が出現するヘンリー・ジェイムズの『エドマンド・オーム卿』(Sir Edmund Orme、1892)の場合、幽霊=サー・エドマンド・オームを…

ダビデのごとくピアノを弾くマイルズ

ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』(The Turn of the Screw)を読み返していたら、なるほど、と思わせる記述があった。マイルズが家庭教師を油断させるためにピアノを弾き、その間、フローラが「幽霊」に会いに「行って」しまった──と、家庭教師が思い込…

ヘンリー・ジェイムズ『大使たち』文庫化

英米文学最強の作家ヘンリー・ジェイムズ(まさか異議はないだろうな)の傑作『大使たち』(The Ambassadors、別題『使者たち』)が岩波文庫より出た。翻訳は青木次生氏だ。大使たち〈上〉 (岩波文庫)作者: ヘンリージェイムズ,Henry James,青木次生出版社/…

歌劇≪オーウェン・ウィングレイヴ≫

「君はあの男がそんなに好きか? あいつを信じるかね?」 レッチミア青年はこのところ手に追えない難問攻めにあってきたが、これほど単刀直入な問いを突きつけられたことはなかった。 「あいつを信じるか、ですって? もちろんです!」 「ならば、あの男を救…

中村真一郎『小説家ヘンリー・ジェイムズ』

小説家ヘンリー・ジェイムズ作者: 中村真一郎出版社/メーカー: 集英社発売日: 1991/04メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (3件) を見る ヘンリー・ジェイムズについて、その創作技法の点で、私が話し合うことのできた唯一の相手…